フラマリの場合
ドドドドドドドドドド!!! 

静まりかえった図書館にはよく響く。 

遠くから聞こえてくるデスマーチに「やれやれだぜ…」といった表情で小脇に、抱えた勝手に貸し出し本を床に退避させる。 

「魔 理 沙 〜 ! ! ! 」 

来るべき衝撃に身構え歯を食いしばる。 

「(モギョ)…ボハ!!」 

ニブイ音と共に矢のようなタックルが魔理沙の脇腹に突き刺さり、ぶっ飛ぶ白黒の魔法使い。 

内臓が飛び出さんばかりの衝撃に、一瞬視界が歪む… 

横たわった床のヒンヤリとした感触が気持ちいい… 

辛うじて自分の呼ばれる声で意識が飛ばずに済む。 

「ねえねえ!遊ぼ!!遊ぼうよ魔理沙!!!」 

逆さまに見える少女の高い声が頭に響く… 

エネルギーの有り余った赤い悪魔は、馬乗りになり患部のお腹の上で「ポンポン」と跳ねる。 

「わ、分かった…分かったから…とりあえずそこから…どいて欲しいんだぜ。フラン…ッウグ!!」 

「はぁ〜い!!」 

元気に手を上げフランドール・スカーレットは「ひょん!!」とトランポリンの要領で腹から立ち退く。 

内臓レイプの余波で吐き気をもよおしつつ…平積みに退避させた本を椅子代わりに魔法使いは腰掛ける。 

ここは雲すら忌み嫌う悪魔の住む館…紅魔館。 

その住人のパチュリーの個人図書館に悪魔と魔法使いのポツンと存在していた。 

「ねぇねぇ!!今日は何して遊ぶの!!?」 

こっちの様子など関係なしに、100点満点の笑顔で幼い悪魔は魔理沙に問いかける。 

顔色は物凄く悪いが、平静を装っていつつ何とか応える。 

「そうだな…かくれんぼとかどうだ??」 

「また〜かくれんぼ〜」 

桃色の頬が可愛く膨れる。 

「だって魔理沙…かくれんぼの鬼、下手なんだもん…そうだ!!今日はアタシが鬼する!!」 

コロコロ変わる表情は幾分か気分が良くなるような気がする。 

「…フランは100まで数えられるのか??」 

「…………でもでも!!10までなら咲夜に教えてもたったもん!!」 

痛いところ付かれたとばかりに反論する。 

「…………………。」 

「…………………。」 

「…………………。」 

「…………………。」 

「…1…2…3…」 

「わ!!ちょっと待ってよ!!!もう魔理沙の馬鹿ぁぁぁ!!!」 

聞く耳持たずと…かくれんぼに勝手にはじまる、急いでフランドールは図書館を跡にする。 

「7…8…9…」 

ドドドドドドドドドド!!! 
足跡が図書館に反響して頭が痛い。 

「10…11…12…」 

バタン!!っと図書館のドアーが弾ける音が響く。 

「…15…16…………100」 



シーンと静まりかえった図書館…フランが出て行ったのを薄目で確認しつつカウントを終了する。 

『ふぅ〜これで少し休憩出来るぜ…』と、まだ痛む下腹部を擦る。 

覚えのある痛みに…少し頬が引きつる。 

「ハハ…あの時は、こんなもんじゃなかったよな…」 

乾いた空笑いに哀愁が漂う。 

『出会った時の事は思い出したくないが…変わったな…』 

魔理沙の率直な感想である。 

フランドールを始めとして…紅魔館の住人全てが… 

大きな溜め息を吐きつつ重い腰を上げて捜索を始まる… 

今日(勝手に)借りる本を。 

「一生懸命やるから楽しいじゃないの?…遊びって。」 

本棚に向かう背中を、蚊の鳴くような声で呼び止められる。 

「おぅ。パチュリーいたのか。」 

館主が登場しても、お構いなしに本棚を物色する。 

「いつから遊びの研究を始めるようになられたのですか、パチュリー先生…っと!!」 

分厚い本を引っこ抜いて、本のトーテムポールの最上段に積み込む。 

只でさえ、ジト目で目つきの悪いパチュリーの眉間にシワがよる。 

「探さないの?…妹様」 

機嫌が悪くなるのを察してか…ヤレヤレといった様子で本を眺めながら答える。 

「自室のベッドの下。」 

フランの自室…地下を指差しながら間延びした声で言う。 

「………………??」 

「フランが隠れてる場所だぜ。」 

意味が分からないパチュリーに補足を入れてやる。 






『はぁはぁはぁ…』 

乱れた呼吸などお構いにしに、フランはベッドの下に頭から潜り込む。 

ゴミだらけの狭い隙間にグリグリと体を捻じ込む。 

キラキラ光る石、用途不明の鍵、謎の鳥の羽、ワインのコルク、穴の開いたシャレコウベを押し退け、何とか体全部をベッドに納める。 

『よし!!これで大丈夫!!』と、心の中でグッとガッツポーズを決める。 

宝箱。 

フランのベッド下は、紅魔館の住人にそう呼ばれている。 

誰がどう見てもゴミにしか見えない物だが本人にとっては…宝物らしい。 

その証拠に咲夜が一度、宝箱を整頓する為に触ったことがあったが…たったそれだけでも本気で機嫌を損ねた事もある。 

『ふふ…今日はどれくらいで見つけれるかな…?』 

鬼が下手な魔理沙が自分を見つける。 

考えるだけで顔が緩む。 

無理やり捻じ込んだ体を器用に動かしつつ、ベッド下のバンドに手を突っ込む。 

咲夜すら知らないベッドの穴から手を抜くと…黒い汚い謎の板。 

間違いなく瀟洒な侍女に見つかると「汚いです。捨てましょう。」と、有無を言わさずポイされるであろう。 

握っている白い手も煤けた粉で少し汚れている。 

ただ…所々、焼け焦げている汚い板に目をよく凝らすとアルファベットの文字… 

恋符「マスタースパーク」 

魔理沙の切り札のスペルカード。 

フランの一番の宝物である。 

去年まで存在しなかった天窓に黄色の三日月が覗いている。 

月光が僅かな光をフランの部屋に差す。 

自分の運命を大きく変えた小さな天窓… 

その壁を打ち破った人間。 

『早く助けに来てね…魔理沙。』 

桃色の唇が焼け焦げたスペルにキスする。 

甘く、ホロ苦い恋の味がした。